Re-birthday (19 Hibari x 18 Tsunayoshi)





―――誕生日。


たくさんの人に「おめでとう」と言われ、プレゼントを貰って、ケーキに立てられた歳の数だけの蝋燭の焔をふうっと吹き消す。恋人が居れば、ふたりきりで甘い時間を過ごせるかもしれない。
それは、一年の中で最も待ち遠しくて、嬉しい一日の筈だ。


しかし…十八歳の誕生日をあと一週間後に控えた沢田綱吉はとても陰鬱な顔をしていた。


「…あと、十日か…」
自室の壁に飾られたシンプルなカレンダー。十月十四日のところに赤い×が記されている。
今日は十月四日。エックスデーまで、あと十日しかない。
「……」
何度カレンダーを見直しても、日付が逆戻りすることはない。
たっぷり二分はそのカレンダーを見つめていた綱吉は…小さく嘆息する。
「…お、ツナ。出かけるのか?」
その時、不意に背後から声をかけられ、彼は飛び上がるほどびっくりした。
「う…うん!」
振り返った先に立っているのは、赤ん坊のように頭の大きな三頭身にはかなり不釣合いなダーク・カラーのスーツを纏い、きりりとオレンジのネクタイを締めたヒットマンだ。その頭には、映画『ゴッド・ファーザー』でアル・パチーノがかぶっていたことでおなじみのボルサリーノ。
四年前、突然、沢田家に現れた家庭教師リボーンは…勉強もだめ、運動をやらせてもだめ。何をやってもダメダメづくしの綱吉を『マフィアのボス』にすると言ってやってきた。


住み込みで三食昼寝つき。いつの間にか、綱吉の母親の奈々にも気に入られたリボーンは、彼をびしばししごいた。
黒目がちでいとけない子供の顔をしているがそれは外見上だけのことだ。彼は呪いを自ら受け、子供の姿になってしまったのだという。
その中身は凄腕のヒットマン。普段は頭にのっけている記憶形状カメレオンのレオンが変化する銃を抜けば、その速さに敵うものは居ない。
実は…リボーンが沢田家へやってきたのはイタリア最大のマフィア、ボンゴレの九代目当主からの依頼を受けたからだった。
その時、ボンゴレ・ファミリーは跡目相続で大変な状況にあった。次代ボスの最有力候補は、九代目の養子XANXASと呼ばれる男だった。圧倒的なカリスマ性を持つ彼は、戦士としても一流だった。しかし…何よりも強さを求める彼は…力によってボンゴレを乗っ取ろうとしたのだ。
九世がその対抗馬として選んだのが…遠い極東の地、日本で平凡な中流家庭に生まれ育ち、普通の子供として育ってきた沢田綱吉だった。
実は…沢田家の遠い祖先は、ボンゴレを創設した最強の首領、初代ジョットだったのだ。つまり、綱吉にはボンゴレの血が確かに流れていたのだ。
XANXASは綱吉にボンゴレボスの座をかけた戦いを挑む。
ボンゴレ独立暗殺部隊[ヴァリアー]。その六人の戦士と綱吉は戦うこととなる。
勝負は七対七の団体戦。戦士たちの指には、奇妙な形の指輪がはめられていた。それはハーフ・ボンゴレリングと呼ばれているものだ。
 「嵐」、「雨」、「雲」、「晴」、「雷」、「霧」、そして…首領の持つ「大空」。七つの指輪はそれぞれふたつに分かれており、闘いに勝ったものがそのふたつの指輪を組み合わせて、真の指輪の主、[守護者]となる。
クラスメイトの獄寺や山本、片想いしている笹川京子の兄、了平らの助けを受け…死闘の末…綱吉はXANXASを破った。
それは、ひとりでは成し得なかった勝利だった。
六人の守護者だけではない。綱吉の家庭教師、リボーン。その友人コロネロに、兄弟子にあたるディーノ。彼らは、綱吉に勉強や格闘技だけではなく人としての強さを教えてくれた。


―――あれから四年が経った。

綱吉はもうダメツナではない。


リボーンのことは綱吉だってとても信頼している。
しかし…読心術を使うこの家庭教師は油断できない。時に、綱吉本人でさえ気付いていない深い心の内側を覗き見してくるのだから。


「そういや…おまえ、獄寺や山本にアレ、ちゃんと渡したのか?」
ベッドにぽすん、と腰かけたリボーンは、高校の通学用に使っているリュックから財布を捜す綱吉に話しかける。
「……うん。ちゃんと渡したよ」
一瞬、手を止めた綱吉だったが、ジーンズの後ろポケットに捜し出した財布をねじこむ。
「そうか。…ならいいんだけどな」
ベッドに腰掛けたリボーンは、まるで子供のように(外見は子供なのだが)足をぶらぶらさせている。
「じゃあ…オレ、ちょっと出かけてくるから」
そう言って綱吉は作り笑いを浮かべ、軽く手を上げる。
「何処に行くんだ?」
それはまるで母親の心配性だった。
しかし、綱吉の実の母親、奈々はそういうことにはてんでアバウトで…小さい時から綱吉が家を出る時に行き先など聞いてきたことはない。気をつけて行ってらっしゃい、早く帰ってきなさいよ、と言うだけだ。
「…何処だっていいだろ?オレ、もう高校生なんだけど」
呆れたようにそう言えば…リボーンの瞳は笑ってはいなかった。
「心配してる訳じゃねぇ、聞いているだけだ」
「…駅前の映画館」
「誰と?」
「…誰でもいいだろ」
違う。心配している訳ではない。これは過干渉だ。
だんだんと綱吉の機嫌が降下しているのが分かったのだろう。
小さな家庭教師はぱちぱちと瞬きをすると…綱吉の心のど真ん中を突いてきた。
「…雲雀だな」
家庭教師が口にした名前に綱吉の鼓動がどくんと音を立てる。


―――雲雀恭弥。


この並盛に棲んで居る者で、彼の名前を知らない者は居ないだろう。
少し長めのまっすぐな漆黒の髪。その前髪に隠されている瞳は、まるで刃のように鋭い。光の加減でグレーに見えたりブルーに見える不思議な色彩の瞳は真夏だって涼しげだ。
デザインチェンジをして、もう今は誰も纏うことのない並中の学ランを肩にかけ、腕には[風紀]の文字が刻まれた腕章。
たとえ大人でさえ、見る者すべてに畏怖を与えるそのしなやかな獣のような姿に魅入られてしまったのは…一体、何時のことだろう。
「…おまえ…雲雀にはアレ、渡したのか?」
リボーンの言葉に綱吉は意識を戻される。
ここで、うまく嘘をつくことが出来ればよかったのかもしれない。けれど…四年間、同じ部屋で暮らし、何度も共に死線を彷徨ったこの家庭教師に嘘などつけなかった。
「…行ってきます」
オフの日専用のバッグをななめがけにし、グレイのパーカーのポケットに手を突っ込むと…綱吉はくるりとリボーンに背を向ける。
「ツナ」
その背中に、子供の声が投げかけられる。
足を止めはしたが、綱吉は振り返らなかった。
背中に感じる鋭い視線。おそらく、リボーンがじっと自分を見つめているのだろう。
「…逃げるなよ」
その声は…まるで鋭いナイフのように綱吉の背中に突き刺さった。





**Comment**

10/12の大阪あわせの新刊です。 どうしてもツナの誕生日のお話が書きたくなって…急遽、新刊を出すのにあわせてイベントに出ることにしました。(笑)→逆だよ。普通。
いや、さすがにこのネタ、来年まで持っていられないと思って。(笑)

というわけで、ちょっとプレビュー風になりましたがすみません。
お楽しみいただけるといいなぁ。


2008.10.1 藍花